基本的な用語の解説

性,性別,ジェンダー

性 (sexuality) について考えるときには,基本的に,性同一性(sexual identity, 性別が何であるか)と性対象選択(sexual object choice, 性的関心がどの性別の者へ向かうか)とが問題になります.後者は sexual orientation(性的指向)とも呼ばれますが,日本語では「指向」と「嗜好」が同音であるせいで誤解を招きやすいので,「性的指向」という表現は避ける方がよいでしょう.

性同一性には,さらに,三つのものが区別されます:生物学的性 (biological sex), 社会学的性別 (sociological gender), 存在論的性別化 (ontological sexuation).

生物学的性は,基本的には性染色体によって規定される身体の解剖学的,生理学的な性別です.ただし,さまざまな先天的異常によって,染色体の性別と身体の性別とが一致しないこともあります.また,染色体そのものに異常があることもあります.

社会学的性別(ジェンダー)は,伝統的,歴史的,文化的に規定され,家族や社会のなかで期待され,課せられる性別です.それは,あくまで人為産物です.

存在論的性別化は,ひとりの人間が「男で在る」,「女で在る」,「男女いずれでも在る」,「男女いずれにも在らず」,「男女のいずれで在るとも定めがたい」等々という実存的な事実です.それは,神によって創造された人間存在の神秘に属するものであり,神がわたしたちに与えてくださったものです.単なる生物学的な性ではありませんし,ジェンダーという人為産物でもありません.

「こころの性」と言われるものは,ある人が自身の存在論的性別(身体的性別ではありません)をどう感じているかにかかわっています.ですから,「こころの性」の問題は存在論的性別の問題に還元されます.

LGBT, LGBTIQ+, 性的少数者

LGBT の四文字は,lesbian, gay, bisexual, transgender の四語の頭文字です:
Lesbian : 女性同性愛者,
Gay : 男性同性愛者,
Bisexual : 性的対象が男女のいずれでもあり得る者,
Transgender : 身体的性別と存在論的性別が不一致である者.

英語圏では,homosexual(同性愛)という語が医学的専門用語と感ぜられるため,日常的には gay や lesbian という語の方が好まれます.gay という語が,lesbian も含めて,同性愛者一般を指すこともあります.

I は intersex の頭文字です.何らかの先天的な原因(染色体異常など)により,生物学的性別が男女未分化である状態です.

Q は queer の頭文字です.存在論的な性別が流動的で,男女いずれでもあり得る,または,男女いずれとも定めがたい状態です.queer という語が広義に用いられて,性的少数者一般を指すこともあります.

LGBTIQ+ の "+" は「その他いろいろ」です.性的少数者のあらゆる多様性を含むことを強調するために付せられます.

transgender という語に beyond sexual binarism(性別の男女二元論を超えた)という意味を読み込むなら,transgender は intersex や queer 等々をも包含し得ると見なすこともできます.

「性的少数者」(セクシュアル・マイノリティ,sexual minority)は,LGBTIQ+ 全体を指します.

キリスト教,クリスチャン,カトリック,プロテスタント

キリスト教は,新約聖書に書かれてあるように,神の愛のおかげで,ナザレのイェスがわたしたち人間の罪をすべて自身に引き受け,その贖いのために十字架上で処刑され,三日目に死から永遠の命へ復活したことに基づく信仰です.

「クリスチャン」は「キリスト教信者,キリスト者」に相当する英単語 christian のカタカナ書きです.

「キリスト者である」とは,単にキリスト教の教義が「正しい」とか「真である」とかと信ずることではありません.「キリスト者である」とは,神の愛のおかげで,イェスにならって,自身の罪を引き受け,象徴的に処刑され,死から復活して,永遠の命を生きる実存様態です.

キリスト者のうち,ローマ教皇の権威を認める者がカトリックです.プロテスタントは,それを認めません.